湖国で輝く企業を訪ねて ー 株式会社 エー・シーケミカル ー
独自の技術ときめ細やかな加工で大手メーカーと差別化
高機能性スポンジのさらなる可能性に挑む
株式会社 エー・シーケミカル/代表取締役社長 竹内 篤志 氏
半導体から医療、食品、最新コスメまで
スポンジといえば一般的に食器洗いや洗車などが身近な用途ですが、さまざまな工業製品の製造工程で利用される素材の一つでもあります。ポーラスマテリアル技術でつくるスポンジは、内部にたくさんの空孔をもつことで布や紙よりも多くの水分を吸いながら保持する為、転写することなく、かつ形状変化をおこしません。製品に付いた水や油を拭き取ったり、表面を磨いたりするほか、薬品などを塗布したりすることにも用いられています。
なかでも、半導体など精密機器の製造に欠かせないのが高機能性スポンジ。守山市に本社工場をもつ株式会社エー・シーケミカルは、この分野において独自の樹脂重合(ポリマー合成)技術と、ポーラスマテリアル(多孔性の材料)技術により、国内外から高く評価される注目の企業です。
同社の「ACスポンジ」は従来の発砲スポンジに比べて吸水性や吸油性、柔軟性、弾力性、耐熱性、耐薬品性、耐摩耗性などに優れており、素材の調合や加工法の調整によって顧客のニーズに対し柔軟に対応することで業績を伸ばしてきました。抗菌性、穴の大きさや硬さの調節など、さまざまな機能を付加できる特性を生かし、医療分野では白血球だけを取り除く成分輸血のフィルターに、また、食品衛生法の基準を満たすことで食品へのタレ付けや調理器具に油を塗布する工程など利用は多岐に広がっています。身近なところでは韓国コスメなどから爆発的に人気が広まったクッションファンデ用パフの分野でも、吸水力を繊細にコントロールする技術によって高いシェアを獲得しています。
他社との差別化のため、生産拠点を中国へ
社長である竹内篤志氏が高機能性スポンジに出合ったのはサラリーマン時代のこと。大学院で化学を専攻したのち、工作機械に用いる切削油のメーカーに勤めていた竹内氏は、開発から調達、生産管理などさまざまな業務を手掛けるなかで、当時日本で大手の1社しか製造を手掛けていなかった高機能性スポンジに魅かれたといいます。化学の素地を生かして独学で研究を始め、製品の可能性を確信した竹内氏は、2005年に40歳で個人事業主として起業。当初は中国のメーカーから製品を輸入販売する商社としてスタートしました。
中国製の製品を扱うことで国産品より価格で優位に立つ計画でしたが、「蓋を開けてみれば不良品や数量の間違いなどが多発し、トラブルの処理に追われて」と竹内氏。そこで翌年、自らメーカーになることを決意して会社を設立します。これまでの研究を生かして製品を開発し、製造はコストを抑えることができる中国で行うことにしました。
国外で製造する際、一番に懸念されたのは開発した特殊技術の流出でしたが、竹内氏は徹底した管理対策を講じたといいます。生産は3つの工場での分業制にして工程を一括把握できないようにしたほか、生産管理は現地に任せる一方で日本語話者は総経理の一人だけにして技術の機密を守り、指導は竹内氏自らが現地で行いました。社員が増えたいまでもコア技術を知るのは社長を含め3人に限定しているといいます。
ニーズに応える完成品加工と小ロット対応
とくに大手他社との差別化として進めてきたのが、完成品の加工です。スポンジはローラーとして工業用機械に取り付けて使われますが、スポンジのみを販売するのではなく、以前に取り付けたスポンジをローラーごと回収し、剥離から装着までを請け負っています。当初は外部委託していましたが、5年目からは栗東工場を設けて自社加工し、コストダウンと短納期を実現しました。完成まで手掛けることで顧客の細かなニーズに応えるのに加え、継続的な受注を可能にしています。また、顧客の困りごとに対応する製品開発や試作にも取り組み、1個からの小ロットにも対応しています。
中国で生産しながらも輸送には航空便を利用することで短納期という価値を加えてきました。量産体制を敷く中国工場と、加工や開発・試作、小ロットに対応する栗東工場の両輪で事業を推し進め、2015年には本社機能と工場を守山に移転。コロナ禍では中国の物流がストップするなどトラブルもありましたが、ものづくり補助金の採択を受けるなど、日本工場での製造を強化することで危機を回避できたといいます。
「ライバルは数百人態勢で開発から製造までを行う大手。社員20人の会社で対抗するには同じことをしていてはダメなんです」という言葉が、これまでの歩みを裏付けています。
B to Cで製品性能を発信し、新たな分野の開拓へ
「創業当時は私と妻の千恵美の二人だけ。自宅のベランダが研究開発室兼、倉庫といった具合で、中国と日本を行き来する毎日でした」と振り返る竹内氏。あるとき出張中に千恵美さんから「事務所を借りて社有車を買ったよ」と連絡を受けて驚きます。まだまだ利益も上がらず、子どもも小さいなか、「妻は何とかなる、のひと言で。技術畑の私にはできないような算段を何度も付けてくれました。だからこそいまがあると思います」。二人三脚で前に進もうという思いは、二人の頭文字を冠した社名にも託されています。
そんな創業当初から一貫して続けているのが、残業ゼロという方針です。付加価値の高い製品をつくり、量や価格で勝負しないという考えのもと、若い従業員も増え、離職率の低さも実現しています。また副社長を長男の大稀さん、製造開発部門は社長と同じ大学・学部を出た次男・蒼馬さんが担うようになり、事業承継の準備も進んでいます。
現在は、ECサイトを開設し、クッションファンデ用パフやマスクなど自社製品のB to C販売にも力を入れています。マスクを使った人から「遮光性が高いのでアイマスクにしてはどうか」といった声や、高機能性スポンジを水槽のフィルターに、またフライフィッシングの疑似餌に使うというアイデアが寄せられ、それらの商品化も行っています。「私たちが思いもよらなかった用途もあり、可能性はまだまだ広がっています。ACスポンジの機能をもっと知っていただくことで、さらなるチャレンジを続けたい」と未来を見据えます。
企業データ
本 社/滋賀県守山市播磨田町38-2
設 立/平成18年(2006年)
従業員/21名
事業内容/高機能性スポンジの製造および販売
企業ポリシー
●独自の高機能性スポンジで顧客のものづくりを支え、発展させる。
●中国での量産と、国内での完成品加工や小ロット対応を事業の両輪に。
●開発やB to Cを推し進め、製品の新たな可能性を追求する。