ミライリポート ~SDGs企業に学ぶ~

株式会社近江美研 代表取締役 井狩 常徳 氏

原産地不明の身体

「この中に“純国産の日本人”の方はおられますか?」

 筆者は仕事柄、各地で講演に招かれて話すことがあるが、その冒頭にしばしば、このように問うてみる。「自分の身体が、純粋に自国産の材料だけで出来ている人はいますか?」と呼びかけているわけだが、未だ一人として名乗り出た人はいない。

 当然だ。グローバル時代の日本にあって、自分の身体をつくり生命を養うための食糧が、自分の住む町や自分の属する国の中だけで確保できていると考えている人はいない。

 ほとんどの人が、自分の身体や生命は、地球上のあらゆる国や地域からもたらされるものによって形作られ生きていることを知っており、むしろそれを常識としている。「それではあなたの身体や生命の「原産地」はどこか?」と聞かれると、私たちは答えに詰まり、ただあいまいに「それは地球です」と答える他ない。

 私たちは、自分にいちばん「身近」な、というより自分の「身そのもの」についてすらその出自を知らず、食事のたびに「原産地不明の身体」で、「あて先不明のいただきます」をどこへともなく告げている。

 「トレーサビリティ」という言葉があるが、私たちは、わが身がこの瞬間に吸って吐いて、食べて出しているものについてすら、その来歴を正しく知っているわけではない。

すてる責任

 SDGsの目標12はモノの過剰な生産や資源の浪費、そして無分別な廃棄をやめ、持続可能な生産消費形態を実現することを目指す。端的に「つくる責任、つかう責任」と表現される。

 あらゆる製品や食料、資源について、その生産から消費、そして廃棄に至るライフサイクル全体を通じたトレーサビリティを確立し、バランスを図ることによって、それにかかわる人権や福祉も含めて、生産と消費を健全かつ持続可能にすることを目指しているのである。

 「つくる責任、つかう責任」というのは分かりやすい。ただこの言い回しには不満もある。「すてる責任」というものが入っていないからである。「つくる」と「つかう」に伴う責任、これはもちろん重大だ。だが「すてる責任」もそれと同じくらいに大切で、たとえばプラスチックの問題ひとつとっても、それが環境にとっていかに重大であるかはご存知のとおりである。

機密文書の出張裁断

 社会的分業のシステムの中で、「すてる責任」というべき部分を引き受けてくれているのが、廃棄物収集運搬事業者であり、野洲市においてその責任の一端を担っているのが、株式会社近江美研である。
 同社は1979年に有限会社として創業。家庭ごみ(一般廃棄物)および産業廃棄物の収集運搬からし尿の汲み取り、浄化槽の維持管理、特許技術を用いた下水道の維持管理などを手掛ける。
 そんな同社の事業で近年注目を集めているのが、2005年から開始した機密文書の処理、それも出張裁断サービスである。
 「ごみに歴史あり」とでも言おうか。一口に「ごみ」と言っても、形状も性質も、時代によって変わる。徹底的な「使いまわし文化」であった江戸時代あたりと現代とでは、その概念も大きく異なるだろう。
 ごみの歴史において、「機密文書」というものがどれほど伝統的かはわからないが、日本においては2005年の個人情報保護法の成立によって、「情報ごみ」とでもいうべきものの扱いが、企業にとって、会社の信用にも関わる切実な問題になったことは間違いない。
 「ごみのトレーサビリティ」という観点からみれば、個人情報を含む書類や機密文書ほど、それが求められるものもないであろう。万が一にも行方知れずになったり、漏洩したりすることがあってはならない。収集し、運搬し、融解施設に持ち込み、リサイクル(資源化)する、この工程の鎖が伸びるほどリスクは高まる。
 いちばん安全なのは、依頼先の関係者立ち合いのもと、現場で処理することである。ただ現状、そこまで徹底したサービスを求めるのは比較的規模の大きな事業所や官公庁であって、必ずしも多数派とは言えないが、一度契約を勝ち取れば、ストック型のビジネスとして継続的に仕事を獲得できる。

二極化する「ごみの質」

 まちの事業者がみな必ずしもひとりで「すてる責任」を負いきれるわけではない。産業廃棄物に関しては現在、大手事業所から排出される形状・性状が比較的安定したものと、町の小さな事業所から排出されるものとに「ごみの質が二極化」しており、「すてる責任」は分かっていても、実務上それに対応することの難しい中小の顧客も多いのである。

 ごみは“排出責任者”といっても、中小の事業者にとっては、実務上、また人員面でもそれは難しいことである。たとえば町の工務店が新築の家を建てる。そうすると、木材や外壁のサイディング、養生シートなど、なんらかの端材が出てくる。その端材の性状をすべて整えて品質ごとに分けられるかというと、なかなか、そのためのゴミの保管スペースを現場で確保することだけでも難しい。そんな中で、職人に“いやいや、混ぜてもらっては困ります!”とは言えないだろう。そこで中間処理業者が「責任のバトン」を受けとり、ゴールへとつないでいくのである。

公衆衛生を通して町の付加価値を高める

 ごみそのものの変化に合わせて、また、市民や大小企業のニーズに合わせて事業を展開し、業界内での差別化を図る一方で、たとえばし尿の汲み取りなどは、利益を度外視してでも、最後の一軒までその要請に応えなければならない。

 「私どもの事業の根幹である一般廃棄物にしても、下水道の補修や維持管理にしても、安全に確実に公衆衛生を確保することは、競争原理だけではできません。これらの業務について言えば、私たちは、市場を広げるというよりも、当社が任されたエリア全体の環境・公衆衛生の“守り役”を担っている、というふうに考えています。そこに当社の存在意義がある」。

 「雨の日も風の日も、毎日私どもの青色のパッカー車が4、5台、市内隅々を走り回っているわけです。そうした日々の業務のなかで、市民のみなさんとの間に築いてきたつながりがある。私たちの仕事の本質は、単に廃棄物を集めて処理するということではなく、そうしたつながりを活かして、まちの公衆衛生の状況全体をバージョンアップさせること、公衆衛生の面からまち全体の付加価値を高めていくことだと考えています」。

感謝の循環のなかに

近江美研代表取締役写真

 「社長を引き継いで改めて感じることは、行政、企業、住民、皆さんの“感謝の循環”の中に私どもの仕事がある、ということです」と井狩氏。

 コロナ禍の中で、エッセンシャルな部分で公衆衛生を「守り」する仕事に対する社会からの感謝が伝わるにつれて、社員の中に「我々がやらずにだれがやる!」といった気概が芽生えるのを感じたという。「“環境事業を通じた感謝の循環”を生み出す。自分たちはその真ん中にいる。そんな誇りを、共に働くみんなと共有したいと思います」。

 「すてる」をめぐる責任と感謝のリレーは今日も続いている。

企業データ

 

本社:〒520-2412 滋賀県野洲市六条818番地

創業:昭和54年(1979年)11月

従業員:27人

事業内容:管更生工事業、廃棄物収集運搬・下水道維持管理

公式ホームページはこちら>>

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