湖国で輝く企業を訪ねて ー株式会社 木の家専門店 谷口工務店ー
顧客に丁寧に向き合う家づくりと長期メンテナンスを実現
滋賀県No.1の社員大工数を誇るプロ集団
株式会社 木の家専門店 谷口工務店/代表取締役 谷口 弘和 氏
大工の高い技術で 「100年、 生きる家」 を
滋賀県は新築住宅が増加傾向にある地域ですが、 全国的に見ると 新築着工数は1996年の約164万戸に比べ現在は半分以下になっており、2025年には70万戸を下回るとみられています。 住宅のつくり手である大工もバブル経済のころは約90万人を数えていましたが、2022年には4分の1以下の約20万人にまで減っているといわれています。
大工不足が業界の大きな問題として取り沙汰されるようになり、大手メーカーも育成に乗り出し始めるなか、20年以上前から自社大工による自社施工に力を入れ、人材の確保と育成に積極的に取り組んできたのが、竜王町にある株式会社 木の家専門店 谷口工務店です。 滋賀県 No.1の社員大工数を誇り、高い技術力で自然素材の注文住宅を手掛けているのはもちろん、住宅完成後、20年間毎年 行う無料定期点検や、 最長100年の長期保証で「100年、生きる家」 を掲げています。
「法隆寺は世界最古の木造建築ですが、常に修繕され、部材が入れ替えられています。木の家が100年、200年と受け継ぐことができるのも、大工の確かな技術があってこそ」と代表取締役の谷口弘和氏。技術力の高さと長期メンテナンスに加え、奇をてらわず100年経ってもデザインが陳腐化しないこと、年齢を重ねても安心して暮らせる設計にすることを家づくりの中心に据え、業績を伸ばし続けています。
下請けからの脱却と、営業マンのいない工務店
1972年、竜王町生まれの谷口氏は、大工の棟梁だった父の背中を見て育ちました。「職人気質で月に2日も休めば十分という父には、遊んでもらった記憶がほとんどありません。ただ、周りにはいまも父が建てた家が多く残っていて、住まいや暮らしの困りごとを解決する棟梁というのは地域の人に尊敬される仕事だと幼心に感じていました」。
高校卒業後、大手ハウスメーカーに入社し、大工として腕を磨いた谷口氏は4年後に独立。社員から下請けの工務店を立ち上げたのは、当時そのハウスメーカーでは第一号という快挙でした。バブル経済下で業績は順調でしたが、ハウスメーカーの仕事は営業や設計施工が細かく分業化され、父のようにすべての責任を背負って客の望む家を建てる棟梁の仕事とは大きく異なっていました。
数をこなすことが優先されて大工は客と話す機会もなく、手抜き工事が横行していることに疑問を感じていたところヘバブルが崩壊。家が売れなくなるなかで、あるとき思い至ったのが「良い仕事をして顧客や自分自身と家族、そして社会に歓迎されるような”みんなが喜ぶ家づくり”をしたい」という考えでした。目指したのは、営業マンではなく施工担当者が顧客に直接向き合い、きめ細やかな対話によって希望に沿った家を実現していく工務店。2002年、ハウスメーカーの下請けをやめて元請けとして再出発することに決めます。
新卒採用と自社大工の育成
しかし、元請け工務店となった矢先、父の多額の負債を背負うことに。「棟梁としては人を育てるのがうまく真面目な父ですが経営は下手で、最初の3年は自転車操業でした」と振り返ります。ショールームを建てる資金がないため倉庫を片付けて改装し、手作りのチラシで宣伝。伝統工法を学び直すために自ら専門学校に通い、設計士と組んで注文住宅に取り組みました。大工の地位を上げ、日本の家づくりを変えることを目標に掲げ、ときには社員大工の育成を行う新潟のビルダーに教えを請いに出かけていき、京セラ株式会社稲盛和夫氏が主宰する盛和塾に入塾して経営も学びました。
自社大工による理想の家づくりをめざすなか、大きな課題となったのは人材の確保です。バブル崩壊後、コストカットのあおりを受け大工の収入は減り、工務店も大工を育てる余裕がなくなったことで技術力の低い大工も増えていました。「ましてや田舎の小さな会社では中途採用で募集しても人はなかなか集まらず、やっと採用してもやる気がなく続かなかったり・・・」。そこで新卒採用をめざして就活動イベントに参加しますが、ここでも同社を訪れる学生は皆無でした。どうしたら興味をもってもらえるかを考えた末、「自分たちが使命を抱いて家づくりをしていることを熱意をもって語るようにした」ところ、少しずつ学生が集まるようになり、2007年からは大卒採用をスタート。多くの大工や設計士を育て、いまでは従業員100人を超える規模に成長しています。
「家道」で日本の暮らしを豊かにする
2013年からは学生コンペ「木の家設計グランプリ」を主催し、全国で認知度が高まっているほか、大工の技術向上のために古民家再生にも力を入れ、手掛けた「大津百町スタジオ」が2018年グッドデザイン賞を受賞。複数の町家を活用した「商店街ホテル 講 大津百町」の運営も手掛けています。
長年にわたり人材育成に力を入れ、さまざまな研修も導入してきました。しかし「与えられただけのものは身につかず、自分自身に“気づき”がないと良い仕事はできない」と考えるようになり、思考することや対話を重視した社員教育に軸足を置くようになったといいます。
「私が好きな茶道には“一座建立という言葉があります。亭主と客がともに場を最高のものにするという考え方で、これは家づくりにも通じます」。つくり手と住み手が共に幸せになれる家づくりを追求することを、谷口氏は「家道(やどう)」と名付け「家道で日本の暮らしを豊かにする」を使命に掲げて社員全員で考える時間をもつようになりました。朝礼では使命の唱和だけでなく、リモートで現場とつないで小グループで対話し、発表を行います。これに掛ける時間は毎朝1時間。当初は社員から戸惑いの声もありましたが、情報や意識の共有が進んだことでモチベーションの向上や業務改善にも繋がっているといいます。
家道によって意識を高めることで、自らの引退後を見据え次世代への継承を進めるのはもちろん、それが顧客に対して100年の家づくりを約束することにつながるという谷口氏。自社だけでなく、家道を業界全体に浸透させたいと講演活動なども積極的に行い、日本の住まいのこれからを見つめます。
企業データ
本社/滋賀県蒲生郡竜王町山之上3409
創業/平成7年(1995年)
従業員/107名 ※パート社員含む
設立/平成23年(2011年)
事業内容/木造建築工事業
企業ポリシー
- 住み手とつくり手がともに幸せになる家づくりで、 日本の暮らしを豊かに。
- 営業マンを置かず、 設計士が顧客の希望を丁寧に聞き取り、提案を行う。
- 自社大工による質の高い施工で、 心地よさと機能性の両立を追求する。